ヘイトスピーチ 新法生かし根絶しよう - 毎日新聞(2016年5月25日)

http://mainichi.jp/articles/20160525/ddm/005/070/039000c
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特定の人種や民族に対する差別的言動を街頭などで繰り返す「ヘイトスピーチ」のない社会を実現させるきっかけとすべきである。
ヘイトスピーチ対策法が衆院で可決し、成立した。個人の人権や尊厳を一方的に傷つけるヘイトスピーチが許されないのは当然だ。野党が昨年、人種差別撤廃法案を国会に提出していたが、今国会で与党が対案提出に踏み切り、与党案に沿って審議が急ピッチで進んだ。
この法律は不当な差別的言動の解消をうたう理念法で、国や地方自治体に、必要な措置を講ずる責務を課す。罰則を伴わないため、ヘイトスピーチの解消には不十分だとの声もある。それでも人権侵害を止める一歩を踏み出したことを評価したい。
ヘイトスピーチの主な攻撃対象は、在日韓国・朝鮮人の人々だ。歴史的経緯があって日本で生活しており、非難されるいわれはない。だが、執拗(しつよう)なヘイトスピーチにより、恐怖感さえ訴えている。この法律を生かし、警察や自治体には、差別的言動を伴う街頭行動などをさせないよう毅然(きぜん)とした対応を求めたい。
対策法をめぐって、与野党は主に二つの点で意見が対立した。
一つはヘイトスピーチの定義だ。与党案は当初、「生命、身体、自由、名誉または財産に危害を加える旨を告知する」としていた。
ヘイトスピーチは「殺せ」「死ね」などの暴力的な言葉だけでなく「ゴキブリ」などと侮辱的な言葉を投げつけるのが特徴だ。こうした言葉が対象外になってしまうとの野党側の意見を与党は取り入れ、法律には「著しく侮辱する」行為を加えた。
もう一つが、ヘイトスピーチを受ける対象だ。与党案では「本邦外出身者」として、在日外国人とその家族に限定した。野党側は「アイヌ民族や難民申請者、不法滞在者への差別が許されてしまう」と主張し、修正を求めたが与党は応じなかった。
妥協の末、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外の差別的言動が許されるとの理解は誤りだ、との付帯決議が可決された。
だが、本来はどんな立場の滞在者であれ、差別的言動にさらされてはならない。その原則に立てば、法律で明確にうたうべきだった。
ヘイトスピーチをめぐっては、国連人種差別撤廃委員会などが法規制を日本政府に働きかけてきた。こうした動きも踏まえ、地方議会でも法規制を求める意見が相次いだ。
市民一人一人がヘイトスピーチを許さないことが大切だ。学校教育などを通じた啓発も重要になる。国民の大切な権利である「表現の自由」に留意しながら、ヘイトスピーチの根絶を目指したい。