(筆洗)「原発をめぐる、わが国の現在の社会通念を簡潔に述べよ」 - 東京新聞(2016年4月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016040702000161.html
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大学入試でも記述式の問題がますます重視されるようだが、こんな問題が出されたら、どう答えるか。「原発をめぐる、わが国の現在の社会通念を簡潔に述べよ」
これは難問だ。社会通念とは「社会一般に支持されている常識や見解」だが、昨秋の全国世論調査では原発再稼働に反対する人が58%で、賛成が37%。だから「現在は原発をめぐって世論が二分し、社会通念と呼べるようなものはない」と答えるしかないのかもしれない。
だが福岡高裁宮崎支部の裁判長によると、原発をめぐる確たる社会通念はあるらしい。きのう、この裁判長は川内(せんだい)原発を止めてほしいと言う住民の求めを退けた。その判断基準が、社会通念だというのだ。
どんな災害が起きても、絶対に原発事故が起こらぬようにするなど無理なこと。ゆえに、どれほどの危険性なら容認するかは「社会通念を基準にするほかはない」と裁判長は指摘する。
そして、専門家も想定しきれぬ災害の危険性には目をつぶるしかないという「社会通念」があると言っているのだが、五年前の原発事故は、まさにそうした社会通念の危うさを如実に示したのではないか。
昨秋の世論調査では、再稼働した原発で事故が起きた場合、計画通りに住民は避難できぬと考える人が74%にも上った。原発事故が起きたら、逃げるに逃げられぬという「社会通念」は取るに足らぬのか。