もし健常者が乗車拒否されたらどう思いますか? 「障害平等」心の壁学ぶ - 東京新聞(2016年3月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016031902000251.html
http://megalodon.jp/2016-0320-1019-45/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201603/CK2016031902000251.html

二〇二〇年東京五輪パラリンピックのボランティア育成や、四月に施行される障害者差別解消法の推進に向け、自治体や大学などで「障害平等研修」と呼ばれる学習プログラムが注目されている。「障害は社会のバリアーがつくり出す」。その視点から、障害のある人にも生きやすい社会をつくるためのヒントを得るのが目的だ。
教室のスクリーンに映し出された短編映画には、障害者と健常者の立場が逆転した世界が描かれていた。健常者の主人公が「車いす専用」のバスに乗車を拒否され、就職面接で腫れ物に触れるような態度を取られるなど、さまざまな差別を受ける姿を、参加者らはぎょっとした表情で見つめた。
慶応大が二月、横浜市で開いた研修の一こまだ。参加した学生や東京都の職員ら計約二十人は四人ずつの班に分かれ、「障害って何?」「平等に扱われないことでは」などと熱心に議論していた。
障害平等研修は主に健常者向け。NPO法人「障害平等研修フォーラム」(東京)が、希望する団体に進行役の「ファシリテーター」を派遣、半日〜数日のプログラムを体験してもらう。
この日の進行役を務めた、車いす利用者の山崎涼子さん(46)は「従来の研修は障害者の介助方法を学ぶことが中心で、障害は障害者自身の問題として終わってしまう。この研修では、周囲が変われば、障害は障害でなくなると気付くのが目的です」と話す。
車いすで越えられない「階段」というバリアーも、スロープがあれば障害でなくなる。同じように「かわいそう」という心のバリアーをなくすことが、差別解消の糸口になるという。
フォーラムによると、一四年以降、国内の自治体などで約六十回の研修が開かれ、千二百人以上が参加。六十時間の養成講座を受けた進行役は、身体、視覚、聴覚、精神の障害がある計四十八人に上る。
障害平等研修は一二年ロンドン五輪のボランティア育成で採用され、東京五輪のボランティア希望者からも問い合わせが増加。フォーラムは今後、企業での開催も呼び掛けていく方針という。
東京都によると、東京五輪では九万人以上のボランティアが必要で、一七年度にはリーダー的人材の募集が始まる。
障害者への差別的扱いを禁じる障害者差別解消法は、公的機関や民間事業者に対し、障害者に必要な「配慮」を求めている。
バリアフリーが専門で慶応大での研修を企画した中野泰志教授は「社会を変えるには企業が変わる必要がある。学生たちが将来就職した企業で差別解消を提案できるよう、全国の大学に研修を広めたい」と話している。
<障害平等研修> 1990年代に、イギリスで障害者差別禁止法を推進する研修として始まり、国際協力機構(JICA)のプログラムとして東南アジアなど約30カ国で実施されてきた。自治体や企業向けの対話型学習で、障害者自身が進行役の「ファシリテーター」を務める。障害の原因は個人でなく社会の側にあるとの視点から、障害者を排除しない組織、社会づくりを目指す。日本ではNPO法人「障害平等研修フォーラム」が2005年に発足、14年から本格的な普及に取り組み始めた。