「忘れられる権利」初認定 逮捕歴の検索結果、さいたま地裁が削除決定 - 東京新聞(2016年2月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022802000111.html
http://megalodon.jp/2016-0229-1515-33/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016022802000111.html

インターネット検索サイト「グーグル」の検索結果から、自身の逮捕に関する記事の削除を男性が求めた仮処分申し立てで、さいたま地裁(小林久起(ひさき)裁判長)が「犯罪の性質にもよるが、ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と判断し、削除を認める決定を出していたことが分かった。
検索結果の削除を命じた司法判断はこれまでにもあるが、専門家によると、ネット上に残り続ける個人情報の削除を求めることを「忘れられる権利」と明示し、削除を認めたのは国内初とみられる。決定は昨年十二月二十二日付。
決定などによると、男性は児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で罰金五十万円の略式命令が確定。名前と住所で検索すると三年以上前の逮捕時の記事が表示されていた。男性の仮処分申し立てに対し、さいたま地裁が昨年六月、「更生を妨げられない利益を侵害している」として削除を命令。グーグル側がこの決定の取り消しを求め、同地裁に異議を申し立てていた。
小林裁判長は「逮捕の報道があり、社会に知られてしまった人も私生活を尊重され、更生を妨げられない利益がある」と指摘。「忘れられる権利」に言及した上で、「現代社会では、ネットに情報が表示されると、情報を抹消し、社会から忘れられて、平穏な生活を送るのが極めて困難なことも考慮して、削除の是非を判断すべきだ」とした。
男性については「罪を償ってから三年余り経過した過去の逮捕歴が簡単に閲覧され、平穏な生活が阻害されるおそれがあり、その不利益は回復困難で重大」と認定、削除は妥当とした。
検索結果の削除を認めた司法判断は二〇一四年十月の東京地裁の仮処分決定などがある。プライバシー権の侵害などを理由としており、「忘れられる権利」への言及はなかった。
今回の決定に対しグーグル側は再度不服を申し立て、東京高裁で審理中。コメントはしなかった。仮処分ではなく、男性が同様に削除を求めた本訴もさいたま地裁で係争中だ。
関係者によると、現在は男性の逮捕歴は検索結果に表示されない。
◆さらなる議論が必要
<情報セキュリティ大学院大の湯浅墾道(はるみち)教授の話> インターネット上にさまざまな情報が残り続ける時代に対応する形で、司法が「忘れられる権利」の存在を示した点は意義がある。ただ、権利の中身はまだはっきりしていないのが現状だ。犯罪歴を例にすれば、本人にとって知られたくない情報ほど、社会にとっては残しておくべきだという考え方もあり得るのではないか。また、元のサイトにあるデータの削除ではなく、検索結果の削除で問題は解決するのか。知る権利への影響も含め、さらなる議論が必要といえる。
◆仮処分決定の骨子
一、逮捕の報道があった人も更生を妨げられない利益がある
一、ある程度の期間の経過後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」がある
一、ネットに逮捕情報が表示されると、情報を抹消して平穏な生活を送ることが困難なことを考慮し、検索結果の削除の是非を判断すべきだ
一、男性は逮捕歴が簡単に閲覧されるおそれがあり、その不利益は回復困難かつ重大
<忘れられる権利> インターネット上に残り続ける個人情報の削除を求める権利。欧州連合(EU)司法裁判所が2014年、所有不動産を競売に掛けられた過去についての検索結果削除を求めたスペイン人の訴えを認め、注目を集めた。日本でも同年秋以降、削除を命じる司法判断が複数出ている。検索サイトには知る権利や表現の自由を確保する公益的な役割があるとされ、個人情報がむやみに削除されることに対する懸念もあり、世界各地で議論を呼んでいる。