(余録)スティーブン・スピルバーグ監督の新作… - 毎日新聞(2016年1月10日)

http://mainichi.jp/articles/20160110/ddm/001/070/102000c
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スティーブン・スピルバーグ監督の新作「ブリッジ・オブ・スパイ」が公開された。東西冷戦下のドイツ・ベルリンでの実話をもとにし「次のアカデミー賞の大本命」とも言われる。
スパイが主人公のサスペンスではない。毎日新聞のインタビューにスピルバーグ監督が語っている。「相違を解決する方法として、お互いの間に橋をかけるのか、壁を築いて隔離するのか」。現代につながるこの問いに、橋の方が良い選択だと伝えたかったという。
「橋」は、地域や人など何かを結びつける象徴でもある。「橋を渡す」など希望や思いを託す時にも使われてきた。逆に後戻りしない、あるいは関係を絶つという意味で「橋を焼く」という表現もある。今の世界はスピルバーグ監督が心配する通りに、橋を焼き、壁を築こうとする時代のようだ。
カナダのケベック大学モントリオール校で国境問題を研究するエリザベス・バレ氏の調査をAFP通信が伝えている。「ベルリンの壁」が崩壊した1989年、世界の国境などには16の壁があった。それが、現在は計画中を含めて65に増えた。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の分離壁がよく知られる。イスラエルが2002年から国際法違反の批判を受けながら建設を進める。最近では、難民を流入させないため、ハンガリーの右派政権がセルビアとの国境に全長177キロの壁の建設を始めた。
私たちも身のまわりに見えない壁を築き、排除と分断に動くことがある。新しい年は身構えたくなるような荒々しさで始まった。こんな時でも、いやこんな時だからこそ、壁を築かず、橋をかけることを選びたい。