http://mainichi.jp/articles/20151213/k00/00m/070/117000c
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東京・新宿の歌舞伎町(かぶきちょう)は匿名でも生きていける街だ。過去に触れられたくない人たちが日本一の繁華街に居場所を求める。そこに一軒のギョーザ専門店ができて半年が過ぎた。「駆け込み餃子」という。
刑務所や少年院を出た人がアルバイトをしている。公益社団法人「日本駆け込み寺」がつくった。人の中で仕事に慣れながら再起を目指す場だ。「出所者の職場」を堂々とうたう。
開店に奔走したのは「日本駆け込み寺」の千葉龍一(ちば・りゅういち)さん(33)。身内の暴力や借金に悩む人の相談に応じてきた。こう言われたことがある。「おかげできょうも一日生きられました」。役に立てたかもしれない。「でも僕の方こそ救われている」と言う。
大学2年の春、運転する車がガードレールに衝突した。助手席の友が亡くなった。高校の野球部のチームメート。野球部の仲間たちが減軽を嘆願した。「あいつの分まで生きろ」。判決に執行猶予が付く。償うことなどできるのか。人の役に立ちたいと弁護士を目指したが試験に落ち続けた。インターネットで「駆け込み寺」のスタッフ募集を知った時、30歳を過ぎていた。
ある若者が店で働く。16歳の時に親が家を出てから一人で生きてきた。裏切られるのが怖くて誰も信じられなくなった。傷害事件を起こし、逮捕された。今は接客を任されている。自信も芽生えた。仕事がきつくても店がにぎわうとうれしい。千葉さんを兄のように慕う。
師走の歌舞伎町に人の波が押し寄せる。「駆け込み餃子」はかき入れ時だ。それぞれの人生が匿名の街で交差する。その中に、悲しみを抱えながら生き直そうとする人がいる。