増える児童虐待 養護施設の支援拡充を - 毎日新聞(2015年5月13日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150513k0000m070112000c.html
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子どもへの虐待が深刻の度を増している。全国の児童相談所が2013年度に対応した虐待相談は約7.4万件に上った。10年前からの推移を見ると、毎年2000件前後増えてきたが、最近は2年続けて7000件前後も増えている。
児童虐待の原因は「周囲からの孤立」「育児疲れ」「夫婦不和」などが複合しているが、最近の調査では「経済的困難」や「不安定な就労」が過半数を占めている。子育て世代の経済苦や雇用の不安定が急増の背景にあるのだ。
子育て支援を重要政策に掲げる安倍政権は、被虐待児の救済やケアにもっと目を向けるべきだ。
虐待された子どもの多くは児童養護施設乳児院、自立援助ホームなどの施設に預けられる。最近は家庭的な環境が重視され、里親やファミリーホームへの委託が増えているが、最も大きな受け皿は児童養護施設で、現在も約570施設に3万人以上が暮らしている。
児童養護施設は親の死亡や離婚で養育者がいない子のための施設だったが、現在入所している子どもの大半は親などによる虐待が理由になっている。もともと養護施設は公的運営費が少なく、給与水準が低いこともあって職員の確保に苦労しているところが多かった。最近は経験の浅い職員が心身に傷を負った子どもたちの対応に悩み、2〜3年で辞めていくケースが多いため、指導的立場の職員が育ちにくく、現場での人材養成がさらに難しくなるという悪循環が起きている。
児童養護施設の職員の22.8%が子どもからの暴力で心身に傷を負った経験があるとの調査結果がある。打撲など軽傷が多いが、骨折もあり、不眠やうつ、摂食障害などの症状を訴える職員も少なくない。
もともと乱暴でキレやすい子どもが多いというわけではない。新しい環境になじめず暴力を振るい、パニックになって刃物を手にするのは、暴力にすがらなければ自分を守れないと思っているからだという。
そうした子どもに対処する知識や経験が職員にあればいい。だが、児童養護施設の職員配置基準は低く、大学や専門学校を卒業したばかりの職員が少ない人数で手の掛かる子どもに対応しかねているのが実情だ。
戦後の孤児院から始まった児童養護施設は大規模収容型のところがまだ多い。最近は4〜5人が小規模な居住棟で暮らすユニット型も増えているが、もっと家庭的な雰囲気の中で職員配置も手厚くしなければ、被虐待児が増えている現状に対処することは難しいだろう。職員の専門性や管理者の指導力の向上も含め、抜本的な改善が必要だ。