戦後70年「戦える国」に変質 安保法案成立へ 憲法違反の疑い - 東京新聞(2015年9月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015091902000112.html
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戦後の安全保障政策を転換する法案が十九日未明の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立する。歴代政権が禁じていた他国を武力で守る集団的自衛権の行使が解禁され、日本が攻撃を受けていない場合でも戦争に加わることが可能になる。戦後七十年の間、平和憲法の下で「戦えない国」の道を歩んできた日本は、憲法学者ら多数が憲法違反と指摘する法案が成立することにより、「戦える国」に大きく変質することになる。
成立阻止を目指した野党は十八日、衆院安倍内閣不信任決議案、参院に首相問責決議案などをそれぞれ提出したが、いずれも与党などの反対多数で否決された。参院本会議の安保関連法案の採決では、与党のほか次世代、元気、改革の野党三党が賛成する。
安保法制では、米国など「密接な関係にある」他国への武力攻撃によって日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と政府が認定すれば、集団的自衛権に基づいて武力を行使できる。首相は、法制で定めた武力行使の新三要件がどんな状況なら満たされるのかについて「総合的に判断する」との説明に終始し、基準を明確にしなかった。
これに対し、野党に加え、憲法学者や元内閣法制局長官らから、従来の政府見解と整合性がなく、専守防衛を逸脱しているとの批判が相次いだ。首相は「合憲と確信している」との主張を最後まで変えなかった。
戦闘活動中の米軍や他国軍への支援では、自衛隊活動地域を定めた従来の「非戦闘地域」の規定を撤廃。弾薬の提供などが解禁される。自衛隊の海外活動は飛躍的に拡大し、戦闘に巻き込まれる危険は高まる。日本周辺以外での国際紛争の際、そのたびに特別措置法を制定しなくても他国軍を支援できるようになる。
安保法制は、集団的自衛権行使の要件を定めた武力攻撃事態法など十本の現行法の一括改正と、国際紛争時の他国軍支援を目的に自衛隊派遣を随時可能とする新法の総称。来年三月までに施行される見通しだ。
◆来年参院選 国民が審判 論説主幹 深田実
安倍晋三首相は安全保障法制に関し、国民の理解が得られていないことを認めながら「成立し、時を経ていく中で間違いなく理解は広がっていく」と言い切っている。首相の方針に対する国民の判断は、来年夏の参院選での民意に委ねられることになる。
首相は安保法制の制定に関し、昨年十二月の衆院選自民党が公約、勝利したとして、国会審議で「国民から強い支持をいただいた」と強調していた。だが、自民党衆院選で主に争点にしたのは経済政策で、安倍政権の「アベノミクス」の継続を前面に掲げた。「安保法制の整備」は公約の片隅に短く載せただけだった。衆院選以降の各種世論調査でも一貫して法整備への反対が多く、首相も今なお国民への理解が浸透していないことを認めざるを得なかった。
参院選で安保法制が主要な争点となるのは確実。国会で廃案を目指してきた民主、共産などの野党は、参院選でも法制への反対を前面に出して選挙に臨む。その結果は、日本の安全保障政策を左右することになる。
◆不戦の意志貫こう
新安保法制が成立しようとも、日本人の心には変わらぬものがあるにちがいない。それは戦後日本の精神、不戦の意志とでもいうべきものだ。
振り返れば、冷戦が終わってPKO協力法が成立した。国際貢献の名の下「普通の国」へという声が出ていた。しかしながら反対も強かった。とりわけ戦争体験者は自衛隊が海外へ行くことに不安をもった。法律には武力不行使のタガがはめられた。ぎりぎりの不戦である。
そして今、安保法案に対し戦争世代は無論、戦争を知らない世代も多くが反対した。違憲の疑い、内容のあいまいさ、民主主義の軽視など理由はさまざまだ。だが底流には日本が築き上げてきた有形無形の不戦の意志が働いている。
有形の部分とは、たとえばアジアの国々への経済支援がある。支援は繁栄を生み、やがて信頼となる。平和醸成である。
無形の部分とは、不戦・非戦の精神である。武力不行使は世代を超えて引き継がれている。
アメリカを悪く言いたくはないが、トリガー・ハッピーと俗に呼ばれる。トリガー、引き金をひきたがるとは好戦的ということだ。巨大軍需産業国の宿命かもしれない。不戦の精神の反対だ。新安保法制は不戦の日本をアメリカの戦争の下請けにしかねない。
政府は日本周辺の緊張をしばしば持ち出した。中国は軍備を強大化させ、北朝鮮は核をもつ。日本は日米同盟を保持すると同時に東アジアの一員でもある。緊張をあおるより融和と秩序形成の役割を果たすべきだろう。
平和主義は、センチメント、情緒的という見方がある。逆に自衛隊の海外活動が高い評価を得てきたのは武力行使をしないからだという指摘もある。実際、武力はテロを拡散させている。そうならば武力不行使はセンチメンタルどころか平和創出のリアリズムではないか。
法律が成立しても国民多数が望まぬなら不用にできる。政治勢力は選挙で決まり、違憲の訴えは司法が裁く。不戦の意志を持ち続けよう。日本の針路を決めるのは私たちなのである。