在外被爆者 国の救済が遅すぎた - 毎日新聞(2015年9月10日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150910k0000m070162000c.html
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援護法や前身の旧原爆医療法に、国籍や居住地などで援護内容に差をつけた条項はない。ところが現行の制度では、国内の病院で治療すれば医療費の全額を国が支給するのに、海外の医療機関であれば一定額までしか助成しない。
居住地で差をつけるのが妥当かどうかが争われた訴訟で下級審の判断は割れていた。初の最高裁判決は、在外被爆者が国外で医療を受けた場合でも援護法を適用し全額支給すべきだという判断を示した。
原爆放射線の影響で被爆者は生涯にわたって健康不安を抱える。判決は、こうした特別な健康被害を救済するのが援護法の目的で、援護対象を国内在住者に限っていないと指摘した。海外にいれば治療のために来日するのは難しく、現地の病院で治療しても医療費が支給されないのは法の趣旨に反するとも述べた。
妥当な結論であり、「被爆者はどこにいても被爆者」という原告らの思いに応えた判決である。国は救済のあり方を見直すというが、対応が遅すぎたと言わざるを得ない。
被爆者健康手帳を持つ海外在住者は韓国、米国、ブラジルなど33カ国・地域に約4300人いる。広島、長崎で被爆した後、帰国した外国人や海外移住した日本人らだ。
外国に移住しても適切な医療が必要なことに変わりはない。ところが国は、外国の医療保険制度は日本と異なり適正な給付ができないとして在外被爆者を援護法の対象から外し、その代わりに上限額を設けて医療費を助成してきた。
援護法はそもそも、被爆者救済の責任は戦争を起こした国にあるという国家補償の性格を持つ。なのに、行政の解釈で適用の対象を限定したことに問題があった。
国は長年にわたって在外被爆者の救済範囲を狭くとらえ、司法が是正を命じる度に政府や国会が対応に動く構図が繰り返されてきた。健康管理手当の支給を海外に移住すれば打ち切るという通達は、2002年に大阪高裁が違法と判断するまで30年近く続いた。健康管理手当の申請が在外公館で可能になったのも司法による指摘を受けてのことだ。
在外被爆者に差別的な扱いを続けてきた国の責任は重い。
在外被爆者の健康診断や健康相談が国内在住者と比べて十分でないという課題も残る。高齢化の進む被爆者にとって医療は切実な問題だ。被爆者の経済力や国籍の違いで差異をつけず援護するという法の趣旨を踏まえた支援策を確立すべきだ。