岩手いじめ自殺 子の痛みにさとくあれ - 東京新聞(2015年7月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015072902000127.html
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学校は子どもの痛みに鈍感になっていないか。岩手県矢巾(やはば)町の中学二年村松亮君(13)の自殺はいじめが一因とした学校の調査結果はそんな不安を募らせる。いじめ克服を掲げても機能しないでは。
村松君が列車に飛び込み、自ら命を絶ってから二十日余り。自殺といじめの関わりを調べた学校の報告書では、現場の危機意識の欠如があらわになっている。
「づっと暴力、づっとずっとずっと悪口」「ボクはついにげんかいになりました」「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」
担任の先生とやりとりしていた生活記録ノートには、追い詰められていく様子や自殺をほのめかす文言が多く残されていた。事実上の遺書となってしまい残念だ。
調査では、担任は「死」の文字を四月に初めて目にしてから常に気遣っていたという。しかし、問題を一人で抱え込み、校内で情報を共有して対処することを怠った。家庭との連携も欠いていた。
一年から二年にかけて、バスケットボール部で強いパスを出されたり、机に頭を押さえつけられたりした六件のいじめがあった。驚かされるのは、先生たちがいずれも、からかいやちょっかい、けんかと捉えていたことだ。
表面上はそう見えても、いじめを否定する根拠にはならない。子どもが心身の苦痛を感じれば、全ていじめ行為である。先生たちの認識がはなから間違っていたとすれば、致命的と言うほかない。
大津市の中学二年男子の自殺をきっかけに、いじめ防止対策推進法が定められたのは二年前だ。
学校は基本方針を立て、福祉や心理の専門家を加えた対策組織を設けねばならない。早期発見のための調査を定期的にしたり、自治体にいじめ情報を知らせたりする義務が課せられている。
矢巾町の中学校も態勢を整えていたのに機能不全に陥っていた。なぜ担任任せになったのか。なぜ組織的に動けなかったのか。学校の調査は踏み込み不足で、問題の核心が見えない。
先生たちが忙しすぎ、子どもとの関係がなおざりになっていないか。評価を気にし、いじめから目を背ける風土はないか。町教育委員会が置く第三者委員会は現場の意識や体質にまで立ち入って調べ、教訓をしっかりと引き出してほしい。
いじめはこの学校だけの問題ではない。どこでも起こる。子どものSOSに即応できるか。全ての学校で再点検せねばならない。