(筆洗)日本の首相としては初となる米議会の上下両院合同会議での演説…:-東京新聞(2015年5月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015050102000166.html
http://megalodon.jp/2015-0501-0933-14/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015050102000166.html

日本の首相としては初となる米議会の上下両院合同会議での演説で、安倍首相はこう語って笑いを誘った。「申し上げたいことはたくさんあります。でも“フィリバスター”をする意図、能力ともに、ありません」。
フィリバスター。「法案の成立を阻むために長々と演説し議事進行を妨害する」ことだ。妨害と言えば聞こえは悪いが、一九三九年公開の米映画『スミス都へ行く』が、この言葉の重みを鮮やかに描いている。
純朴な理想主義者のスミス青年は思わぬ展開で上院議員になり、利権を牛耳る黒幕の暗躍に気付く。それを正そうとするが、逆に汚職の濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着せられ、上院から除名されそうになる。
その時スミスが使うのが、フィリバスター。いったん起立し発言を始めたら無制限に続けうる上院の定めを盾に、二十三時間も話し続ける。ふらふらになりつつも合衆国憲法を朗読し、理想を説く姿を、アナウンサーが伝える。「民主主義最高のショーたるフィリバスターは、米国が誇る言論の自由を最も劇的に表すものです」。
民主主義は単なる多数決ではない。少数意見を数で抑え込むのではなく、それを尊重し、耳を傾けて議論を重ねる。その精神の象徴がフィリバスターなのだと古い映画は教えてくれる。
一強多弱の国会で安全保障法制をめぐる論戦が始まる。果たしてフィリバスターの精神は見られるだろうか。

米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説-内閣官房内閣広報室(2015年4月29日)
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0429enzetsu.html

スミス都へ行く原題)Mr. Smith Goes to Washington (1939年製作・アメリカ映画)