(筆洗)百三十年余前の新聞を開いてみた。そのころ名古屋で発行されて…-東京新聞(2015年3月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015032702000139.html
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百三十年余前の新聞を開いてみた。そのころ名古屋で発行されていた「愛岐日報」である。明治十四年九月三十日付の紙面には、自由民権の闘士・村松愛蔵による憲法草案が掲載されているのだが、その地方自治をめぐる条文は驚くべきものだ。
<第五十六条 各地方各自其独立自由ヲ有ス 第五十七条 各地方各自ニ其独立自由ヲ保護スルニ必要ナル武備ヲ為スヲ得>。地方自治体は独立することができ、独立を守るための武力も持ちうるというのだ。
何とも大胆な考えだが、村松案は例外ではない。この時代には各地でさまざまな憲法草案が出されて、米国のような連邦制を主張したり、地方自治への国の干渉を厳しく規制する条項を入れたりと、実に生き生きとした地方自治論が展開されていたのだ。
地方自治は民主政治の最良の学校、その成功の最良の保証人なり>とは、英国の政治家ブライスが一九二一年に出した『近代民主政治』(邦訳・岩波文庫)で紹介した格言だが、彼は地方自治の精神を水の流れにたとえた。
<…岩間に湧き出て、その流れは時には全く見えなくなり、時には地下に潜み、遂(つい)に大なる水勢となって再び現れ…>。
日本の地方自治にも豊かな水源があることは、歴史が指し示すところだ。明治の先人にも負けず劣らずの大胆な地方自治論が戦わされるなら、統一地方選もおもしろくなるのだが。