三浦綾子の反戦 全国へ広がれ 戦時小説の展示 貸し出しへ-東京新聞(2015年1月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015012702000245.html
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北海道旭川市三浦綾子記念文学館は四月から、作家の故三浦綾子さん(一九二二〜九九年)が戦時下を描いた小説「銃口」と「母」の企画展で使った展示物一式を、全国の資料館や団体に貸し出す。文学館の担当者は、戦後七十年を機に「平和をつくり出すために知っておくべきこと、考えるべきことは何かを伝えたい」と訴えている。

銃口」は、日常生活をありのまま表現させる綴方(つづりかた)(作文)教育を実践した教師らが、共産主義教育をしたとして治安維持法違反容疑で大量逮捕された四〇〜四一年の北海道綴方教育連盟事件を、戦中に教師経験のある三浦さんが取材した。

軍国主義教育に疑いを持たず、生徒を戦地に送った反省から書き上げた作品で「戦争は二度と起こしてはならない、と若い人が真剣に考えてくれれば」との願いが込められている。漏えいが処罰される秘密の範囲が曖昧な、特定秘密保護法の成立をきっかけに再び注目され、昨年の企画展は約一万六千人が訪れた。

「母」は三三年に特高警察の拷問で殺された、「蟹工船」で知られる作家小林多喜二の母セキの生涯を描いた作品。貧しくとも優しさにあふれた家族が時代に翻弄(ほんろう)される姿を、母の一人語りの形で浮かび上がらせた。

二〇一〇年の企画展で展示されたパネルは、セキの口調で「この国はどっかで道間違えたんでないか、大事なものが今は何もかも壊れかけているんでないべか」と、来場者に問い掛ける。

これまで北海道限定で移動展を開いてきたが、三浦文学をさらに広めるため、全国への貸し出しを決めた。展示物は一作品につきパネルや創作ノートの複写など約五十点で、講師も派遣する。

文学館の難波真実事務次長(42)は「時代に正面から向き合った三浦綾子だからこそ、伝えられることがある。幅広い読者に、作品の完成までの軌跡に触れてほしい」と話した。

母 (角川文庫)

母 (角川文庫)