「トム少佐、聞こえるか。応答せよ」。歌詞の世界は深刻である…-東京新聞(2015年1月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015011802000123.html
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「トム少佐、聞こえるか。応答せよ」。歌詞の世界は深刻である。宇宙船がどうやら事故を起こした。地上管制塔が何度も呼びかけるが、応答がない。デビッド・ボウイの「スペイス・オディティ」(一九六九年)。トム少佐が乗り込んだ宇宙船は、漆黒の闇をさまよい続ける。帰還は困難である。
いい曲だが、悲しい。二〇一三年五月、カナダ人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション内でこの曲を演奏して話題になったが、縁起でもないと小欄などは気を揉(も)んだものである。
驚いたことに、あの歌を前向きで挑戦の歌と解釈することもできるそうだ。「あの歌はね、トム少佐の勇気と未知への挑戦について、歌っているのよ」。米映画「LIFE!」(一三年)にこんなせりふがあった。見方ひとつで目の前の世界は大きく変わる。
大学入試センター試験が行われている。受験シーズンである。受験生の緊張と不安は分かるが、これも「見方ひとつで」かもしれない。
苦しみながらも受験生はこの間、充実し、気合の入った日々を過ごせたのではないか。周りから温かい応援をもらったのではないか。
「受験生は、幸せだと思う。君はまだ、気づいていないだろうけど」。学習塾の広告だが、「一心不乱」も無条件の応援も人生ではそうそう味わえないものだ。「受験生、聞こえるか。そこは、闇の世界ではないよ」。肩の力を抜いて。