内田樹が語る「戦争について真剣に考えていない国が『戦争のできる国』になろうとしている現実」- 週プレNews(2014年12月9日)

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もともとの自民党イデオロギー政党ではありません。党内に極右からリベラルまで含んだ「国民政党」でした。国民の生活実感をくみ上げることで長期政権を保ってきたのです。
そして外交戦略は「対米従属を通じての対米自立」一本やりだった。従属することで主権を回復するというトリッキーな戦略ですが、それが戦後日本の戦略として最も合理的で現実的だったわけです。現に、その戦略のおかげで日本は敗戦から6年後にはサンフランシスコ講和条約で主権を回復し、1972年には沖縄返還で国土を回復した。対米従属によって「ペイできた」というのは自民党政権の歴史的成功体験だったわけです。しかし、この成功体験への固執がそれから後の日本外交の劣化をもたらした。

沖縄返還後42年の間、日本はひたすら対米従属を続けましたが、何ひとつ回復できていない。世界中から「アメリカの属国」だと思われているけれど、その見返りに「対米自立」としてポイントを獲得できた外交的成果はひとつもない。ゼロです。

米軍基地は縮小も返還もされない。年次改革要望書を通じてアメリカは日本の政策全般についても細かい指示を続けている。対米従属は本来は主権回復のための手段だったはずですが、それが3世代にわたって受け継がれているうちに「自己目的化」してしまった。対米従属を手際よく効率的にこなすことのできる人たちが政治家としても官僚としても学者としても「出世できる」システムが出来上がってしまったのです。

自民党が国民政党からイデオロギー政党に変質したことは、この「対米従属の自己目的化」の帰結だと僕はみています。安倍首相はじめ対米従属路線の主導者たちが、その見返りに求めているのは日本の国益の増大ではなく、彼らの私的な野心の達成や個人資産の増大です。

今回の解散・総選挙はどのような国益にも関わりがありません。政権の延命が最優先されている。かつての自民党政権は列島住民の雇用を確保し、飯を食わせることを主務とする「国民政党」たらんとしていましたけれど、現在の自民党は限定された支配層の既得権益を維持するための政治装置に変質してしまいました。