終戦記念日対談 金子兜太×いとうせいこう-東京新聞(2014年8月15日)

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<戦前の空気に抗って>
69回目の終戦の日にあわせ、俳人金子兜太(とうた)さん(94)=写真(左)=と作家のいとうせいこうさん(53)=同(右)=が対談した。海軍主計大尉としてトラック島で敗戦を迎えた金子さんと、東日本大震災を題材とした小説「想像ラジオ」が大きな共感を広げたいとうさん。俳句をテーマにした共著もある旧知の二人に、5・7・5の17文字がつくりだす小宇宙を手掛かりに、戦争と平和、社会を覆う空気などを縦横無尽に語り合ってもらった。

想像ラジオ

想像ラジオ


いとうせいこう 金子さんは現実、戦時中に南洋へ行かれていた。大岡昇平の「野火」を読んでも分かるように、戦死者は決して勇ましいものではなくて、過半は餓死者であるということを、なぜこんなに隠して勇ましいことのように美化するのか。意味が分からないくらい情報が隠されている。本当に先進国なのかと思うくらいひどい。

大岡昇平 小説家、評論家。「野火」は、自身の戦争体験を基にした戦争文学の代表作。

野火(新潮文庫)

野火(新潮文庫)

 金子兜太 おっしゃるとおり。私がいたトラック島は死の現場として、いまいっぺん伝えたい。安倍さんをはじめ、今の政治家は、集団的自衛権を実現させようと、憲法の事実上の改悪を考えたりして戦争へ一歩近づいているが、なんであんな平気な顔で、得意顔でできるのかと考える。そうしたら分かりましたよ。死の現場をほとんど踏んでない人たちなんだ。トラック島は日本軍の連合艦隊の基地だったんだけど、アメリカの機動部隊にばんばんやられた。連合艦隊は逃げて、第四艦隊が残ったがぜんぜん弱い。そこで武器がなくなった。手りゅう弾をたくさん作り、実験をやったんです。「俺がやる」と志望したのは、兵隊さん以下として扱われている民間の工員さん。やったとたんにボーンって右手がすっ飛んじゃって。背中が破片でえぐられて、運河のようになっている。それで即死したわけです。餓死ってのは、いたましいわけでね。しかも工員さんは、国に殉ずるなんて考え方で来ていない。本当に無知な人たちが力ずくで生きてきて、結局食い物がなくなって死んでいく。仏様のような顔で。逆に悲惨なんですよ。戦場という死の現場を分かっていない政治家は、自衛隊の連中をすぐそのまま戦場へ持って行くことを平気で思っているけどね。自衛隊の人が足りなくなって徴兵制度が敷かれるようになることが心配なんですよ。