2009年5月から始まる裁判員裁判には、家裁の審判で「刑事処分相当」として逆送された少年事件も対象になります。
2000年少年法「改正」で、刑事処分年齢の引き下げ及び原則逆送の新設により、刑事処分に付される少年が大きく増加しています。
ただし、少年事件は成人と異なり、再度、家庭裁判所に戻す移送制度(少年法55条)があります。
第55条
裁判所は、事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのか相当であると認めるときは、決定をもつて、事件を家庭裁判所に移送しなければならない。
少年法は、「健全育成」を理念にしており(1条)、一旦、家裁で「刑事処分相当」とされ、刑事裁判に付されても、なお、「保護処分」を模索するため、この規定が設けられています。
ただし、55条移送をするか、刑罰にするか、を判断するには、家裁の段階で調べた記録 ---それは少年の生育暦やその家族等のプライバシーが多く含まれるのですが--- それらを十分に調べる必要があります。
現在、裁判官はこの記録を法廷外で読み込むことにより、刑罰を科すのか、もう一度家裁に戻して少年院送致などの保護処分にするのか、を判断してきました。
プライバシー保護と少年法の理念をめぐって裁判員裁判でどうするか、という大きな問題が当初からありました。
このことについて、最高裁司法研修所は2008年11月に報告書の骨子を公表しました。
少年事件の調査報告書、簡潔に…裁判員制度で指針-読売新聞(2008年11月8日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20081108
骨子では、少年に刑事罰を科すか、保護処分とするかを判断するのに詳細な成育歴などの調べは必要ない、調査記録全体を証拠として採用する必要はないとし、刑罰の是非などに関する家裁調査官の見解だけで足りるとしました。
それに対し、日弁連は、2008年12月19日、「裁判員制度の下での少年逆送事件の審理のあり方に関する意見書」を公表しました。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/081219_3.html
(引用)
本意見書について
2009年5月から実施される裁判員制度は、少年逆送事件も適用の例外としていません。
一方、裁判員制度の創設過程において、立法者は、裁判員制度の実施が少年法の理念に変容をもたらしたり、少年法の適用に変化をもたらしたりすることは予定していません。
日弁連は、裁判員制度の開始によって、少年法の理念及びそれに基づく個別の条文についての解釈適用の変更があってはならないと考え、意見書をとりまとめました。意見書の趣旨
意見書では、「証拠の厳選という名のもとに、少年の成育歴などの証拠が制限されてはならない」と批判し、そして、原則逆送制度ができた立法趣旨と異なる見解をベースにしてこのような報告を出した最高裁司法研修所報告書も批判しています。
刑事処分年齢の引き下げと原則逆送が新設された以後、刑事処分に付される少年は増え、反面、55条移送も増えています。
最高裁司法研修所報告書のとおりになると、55条移送になるケースはほとんどなくなってしまい、少年法55条は事実上死文化してしまいかねません。裁判員法の施行によって、少年法が事実上「改正」されてしまってはなりません。
日弁連意見書はこれらを危惧し、裁判員裁判でも少年法の理念に則って少年の成長発達権、プライバシー権に配慮した審理方法が貫徹され、弁護活動が制約されたり、55条が死文化しないように運用を求めています。
(関連サイト)
子どもと法21
http://www.kodomo-hou21.net/