成年後見訴訟 人権より事務手続きか-東京新聞(2013年3月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013032902000143.html
http://megalodon.jp/2013-0329-0814-49/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013032902000143.html

憲法はすべての成人に選挙権を保障している。主権者である国民の負託を受けた為政者が、主権者の投票能力の有無を決めることは民主主義に反する。権利をどう行使するか、あるいは棄権するかは国民の判断に委ねられている。

選挙の混乱とはなにか。後見人がついている人を選挙人名簿に登録して投票案内を出すのに、実務上どんな支障があるのか。知的障害や精神障害があっても後見人がついておらず、選挙権を行使している人はすでに多くいる。

他人に唆されて不正投票に及ぶ恐れがあると国は心配する。だが、不正行為は障害や病気のある人に限った話ではないし、そもそも国は一審でどんな実害があるのか立証できなかった。

曖昧な「恐れ」で基本的人権である選挙権を奪い続けるのは、国の権力乱用と言うほかない。

財産や契約上の不利益から判断能力の弱い人を守るのが成年後見制度だ。障害や病気があっても自立して生きられる社会を目指すノーマライゼーションの理念に基づく。後見人がつくと選挙権を失う規定はこの理念に逆行するのだ。

筆洗:「違憲の三月」。三月も、あと二日。後年、法学者はこの月をこう呼ぶかもしれない。-東京新聞(2013年3月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2013032902000142.html

三月も、あと二日。後年、法学者はこの月をこう呼ぶかもしれない。「違憲の三月」。一票の格差をめぐる訴訟で各地の高裁が違憲判決を出し続けた。これらの判決に劣らず、一票の重みを感じさせたのは、名児耶匠(なごやたくみ)さん(50)が勝ち取った違憲判決だ。


匠さんはダウン症で知的障害がある。けれど、選挙公報を熟読し投票に足を運び続けた。学校や職場でひどい差別を受けてきた匠さんにとり、選挙権は「みんなと同じ国民であることの証し」だった。


その証しが奪われた。父の清吉さん(81)が匠さんの「成年後見人」になったためだ。知的障害のある人らが悪徳商法などの犠牲にならぬよう作られたのが、成年後見制度だが、成年後見人が付くと、選挙権を失う。弱い立場の人たちを守るための仕組みが、国民としての証しを機械的に奪う。ひどい制度だ。


だから清吉さんは「この命のあるうちに娘をもう一度、主権者に」と求めた。東京地裁は訴えを認め、裁判長は「選挙権を行使し社会に出てください。堂々と胸を張って、いい人生を生きてください」と言った。


一票の重さを軽んじる姿勢を改めるよう裁判所に何度言われても、政治家は是正を先延ばしにしてきた。


前回衆院選の日、匠さんは投票に行く父母を黙って見送ったそうだ。あの時の投票率は戦後最低の59・32%。動かぬ政治は、国会だけの問題ではない。

判決要旨
http://www.kodomo-hou21.net/pdf/20130314.pdf