【政界地獄耳】LGBT法案通って一件落着になるのも危険 - 日刊スポーツ(2023年5月17日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202305170000055.html

★19日から始まるG7に何としても間に合わせよと自民党が党内議論を急いだ「自民党LGBT理解増進法案修正案」を16日午前の党総務会で了承、公明党とすり合わせてサミットまでに国会で可決させる。自民党内では2年前の超党派で作った法案をたたき台に議論。最後まで党内保守派が反対したものの、立法の目的を削除、「差別は許されない」を「不当な差別はあってはならない」に、「性自認」を「性同一性」に変えた。また項目として独立させていた「学校の設置者の努力」を削除した。

★これでG7と肩を並べたと思ったら大間違いだ。男女格差が先進7カ国で最下位の日本。この議論は国論を二分などしていない。多くの世論調査で7割が賛成している。自民党以外の政党は「差別禁止」に前向きだし、超党派の法案をつぶしたのも自民党だ。党政調会長代理・西田昌司はこの問題の党内議論後、記者団に「『差別を許さない』とすると分断が起こる」と説明、「(日本を)分断しようという勢力とは何か」と問われると「マルクス共産主義の延長線上なのは事実」と説明した。この説明でなるほどとひざを打つ記者はいなかったが、これが主要先進国に通ずるのだろうか。

★そのG7諸国はLGBT差別禁止法、婚姻の平等(同性婚)、法的性別変更の要件・子なし要件、不妊要件、非婚要件などの条件も既に一切ない。そしてそのすべてを日本は認めていない。こんな法律を作ってもG7に肩を並べることはできない。ただ、13日付読売新聞の社説が示すように「心と体の性に違和感がある人たちに対する差別は許されないが、現在議論されている法案は、課題が多すぎる」のは確かだ。「差別は許されない」とは思うが、同法案では「どのような行為が差別にあたるかを明示しておらず、具体策を曖昧にしたまま法整備を急げば、法律の趣旨を逸脱した過剰な主張や要求が横行し、社会の混乱を招く恐れがある(一部抜粋)」。法案が通ることで一件落着になるのも危険だ。両院は特別委員会で改めて議論を進めるべきではないか。(K)※敬称略

13日付読売新聞の社説:
LGBT法案 拙速な議論は理解を遠ざける - 読売新聞(2023年5月13日)

https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20230512-OYT1T50280/

心と体の性に違和感がある人たちに対する差別は許されないが、現在議論されている法案は、課題が多すぎる。慎重な検討が不可欠だ。
自民党の一部議員が、性的少数者(LGBT)への理解を深めるためだとして、理解増進法案の国会提出を目指している。
法案は、LGBTに関する施策を推進するため、政府が基本計画を作り、毎年、その実施状況を公表することを国に義務づけている。企業や学校に対しても、必要な対策の実施を求めるという。
しかし、理解増進法案は、どのような行為が差別にあたるかを明示しておらず、肝心の対策も、今後の検討に委ねている。
具体策を曖昧にしたまま法整備を急げば、法律の趣旨を逸脱した過剰な主張や要求が横行し、社会の混乱を招く恐れがある。
例えば、出生時の性は男性で、自認する性は女性というトランスジェンダーの人が、女性用のトイレを使いたいと主張した場合、どうするのか。スポーツ競技で、トランスジェンダーが女性の種目に出場することを認めるのか。
トランスジェンダーにこうした権利を認めることになれば、女性の権利が侵害されかねない。
多様性を認めるためだとして、安易に法整備を図ることは慎むべきだ。「これも差別だ」「あれも差別だ」といった過激な主張に振り回される可能性もある。
先進7か国(G7)の中で、LGBTに関する法律がないのは日本だけだ、といった主張は事実に反している。各国は、差別禁止の一般的な規定を設けているが、日本は最高法規法の下の平等を定めており、大きな違いはない。
19日からのG7首脳会議(広島サミット)前に法案を提出すべきだ、といった主張はおかしい。
それぞれの国の歴史や文化、社会通念を認め合うことも、多様性の尊重と言えよう。
そもそも、今回の法整備の進め方には問題が多い。
岸田首相は2月、LGBTを差別する発言をした首相秘書官を更迭するとともに、自民党に法案の提出に向けた準備を指示した。
岸田政権は多様性を尊重していない、という批判を避ける狙いがあったのだろうが、法案提出の表明は拙速と言わざるを得ない。
米国では、LGBTを子どもたちに教えるべきかどうかを巡って、対立が深まっているという。海外のLGBT対策を参考に、日本社会にふさわしい施策について議論を深めることが大切だ。