<コラム 筆洗>二〇〇八年、ジャーナリストの安藤優子さんは女性誌の対談に歌… - 東京新聞(2023年4月29日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/246984

二〇〇八年、ジャーナリストの安藤優子さんは女性誌の対談に歌手アグネス・チャンさんを招き「まずお詫(わ)びしたい」と切り出した。
その約二十年前、アグネスさんが赤ちゃんを連れてテレビ局に出勤したことを巡る「アグネス論争」が起きた際、批判的な立場を取った。働く女性こそ渦中の人を応援すべきだったのではないかと「心の中にひっかかっていた」という。
「アグネスさんのように時代を切り開いた人がいるから、職場に託児所ができたり、仕事と出産の両立があたりまえになってきたわけで」。アグネスさんは誠実さに胸打たれ、救われた思いがしたという。
愛知県豊明市が五月から職員の子連れ出勤を通年で認める。ふだん預ける保育園が使えないなど緊急時の選択肢。全国の自治体で初めてらしい。
三月上旬から約一カ月試行。男女の職員計二十人余が延べ三十回以上、子連れ出勤したが、アンケートでは受け入れ側職員にも容認する意見が多かったという。アグネス論争時と比べて「職場に子どもなんて」と拒む人は減ったのだろう。少子化も深刻さを増した。
アグネスさんの子連れ出勤は、親らが香港在住で頼れず、レギュラー番組を多く抱えて長い育児休業は困難だったことなどが理由。誤解されがちだったが「ポリシー」でそうしたわけではないという。時に職場の優しさに頼むほかない現実が今と通ずる。