<金口木舌>「眉屋私記」とサンタクロース - 琉球新報(2022年12月6日)

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名護市屋部が舞台の上野英信の「眉屋私記」。1908年に炭鉱移民でメキシコに渡り、その後キューバに移った山入端萬栄。妹のツルは、貧しさから辻に身売りされた

▼日本が近代化を進める中、社会福祉は後回しにされた。苦難の道を歩まざるを得なかった沖縄の民衆の姿が丹念に描かれている。困窮による身売りはローマ帝国でもあった
▼3世紀ごろに現在のトルコ共和国になっている小アジアのミュラで司教をしていたニコラウス。近所で貧しい生活を送る三姉妹に気づいた。長女は妹たちのため身売りの決意を固める
▼心を痛めたニコラウスが窓から投げ入れた金貨は、暖炉の前に干してあった靴下の中に入った。長女は身売りをせずに済む。ニコラウスはサンタクロースのモデルとなった
▼12月6日は「聖ニコラウスの日」。眉屋私記の時代から1世紀過ぎた沖縄では今も貧困が残る。聖人を待たずとも安心して暮らせるよう福祉の充実が必要だ。同時に、近所に困っている人がいないか聖人にならって目配りをするいい機会かもしれない。