<ぎろんの森>「軍拡増税」許されるのか - 東京新聞(2022年11月26日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/216219

政府の有識者会議が、五年以内に防衛力を抜本的に強化し、そのための財源を「幅広い税目による負担」に求める報告書を、岸田文雄首相に提出しました。いわゆる「軍拡増税」を求めるものです。

本紙は二十三日社説「防衛力強化提言 増税なら国民に信問え」で「物価や光熱費が高騰する一方で賃金は上がらず、社会保障負担も増え続ける状況で、いくら防衛のためとはいえ多くの国民が増税に納得するとは思えない。国民を守るための防衛費負担が暮らしを圧迫することになれば本末転倒だ」と指摘。

その上で「そもそも自民党は昨年の衆院選と今年の参院選で、防衛力強化のための増税など国民負担増を公約していない。税をどう扱うかは議会制民主主義の根幹だ。増税するのなら衆院を解散し、有権者に判断を仰ぐのが筋ではないか」と訴えました。

軍事的台頭が著しい中国や北朝鮮を抑止するには、日本の防衛力を強化することも一つの考え方ではあります。

ただ自民党が目指すのは二〇二二年度で国内総生産(GDP)比1%弱に当たる約五・四兆円の防衛費を「五年以内にGDP比2%以上」にする大幅な増額。新たに年間五兆円超の財源が必要で、消費税ならおよそ2%分です。

戦後日本は憲法九条に基づく専守防衛の下、防衛力を抑制的に整備してきました。短期間に防衛費を倍増すれば、日本は再び軍事大国化を目指すと受け取られ、軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」に陥りかねません。その先にあるのは、戦前戦中のような軍事国家でしょう。

読者からは「防衛費の負担を国民に強いるのは第二次世界大戦のときと同じ。未来を壊されてしまう」「防衛装備をどんなに造り上げても世界が滅びるだけの競争でしかない」との意見が届きます。

首相は、国家安全保障戦略など三文書を年内に改定し、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有などの「軍拡」やその財源を確保する「増税」への道を歩み出そうとしていますが「軍拡増税」に国民の幅広い理解が得られるのか。軍事ではなく外交力を駆使する「別の道」を探るのが、政治の責任ではないでしょうか。

最後に八十代読者の声を紹介して本稿の締めくくりとします。「戦争経験者にとって平和憲法は命です」 (と)