(私説・論説室から) 分断の責任、岸田首相に 論説主幹・豊田洋一 - 東京新聞(2022年9月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/205022

国葬とは国家として故人を葬送する儀式である。そして国家とは、領土や居住する国民、政治権力で構成され、国家意思を決定するのは主権の存する国民だ。つまり国民が同意しない国葬はあり得ない。

きのう行われた故安倍晋三元首相の国葬はどうか。国葬実施を定めた法令は存在せず、実施決定や予算支出には、国民の代表で構成される国会の議決が必要であることは自明の理だ。

しかし、岸田文雄首相は国会に諮らず、論理的な説明も尽くしていない。内閣府設置法の所掌事務を根拠に国葬実施は「行政権に属する」と述べたが、いかにも無理がある。国葬を行う前提となる安倍氏歴史的評価も定まっていない。

所掌事務に「国の儀式に関すること」が記されていても、行政権を根拠に何でもできるわけはあるまい。

例えば、防衛省の所掌事務には「防衛及び警備」や「自衛隊の行動」に関することなどがあるが、国民を守るための具体的行動は別途定められた法律で規定される。自衛隊が制限なく行動できるわけではない。

所掌事務を根拠に、法律に定めのないことを行政権に属するとして平然と行う姿勢には危うさを感じる。

報道各社の世論調査によると、この国葬には半数以上が反対する。故人を静かに悼むはずが、首相の浅慮により、国民を分断し、儀式から静謐せいひつを奪った。その責任は、多数の国民の意思に背き、国葬実施に踏み切った首相にあることは明らかである。