【政界地獄耳】「決断と実行」岸田首相には重いキャッチコピーでは - 日刊スポーツ(2022年6月3日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202206030000091.html

★1972年7月に首相に就任した田中角栄日中国交正常化という電撃外交の大手柄をひっさげ11月に解散、12月10日投開票の第33回衆院選挙に臨んだ。コンピューター付きブルドーザーと言われ国民の人気の高い田中のパワフルさを前面に押し出した選挙となった。結果は自民党が271議席で前回の297議席よりも減らす。日本社会党118議席共産党38議席公明党29議席民社党19議席などで野党・無所属で220議席を持ち、角栄人気とは裏腹に保革伯仲時代の入り口に立ったような選挙結果となった。

有権者の多くが戦争体験者で出征した者、国内で苦労した者、満州や中国戦線で多くの日本人が生と死を体験した。中国に対しての贖罪(しょくざい)意識や戦前のような関係に戻りたいと考える国民が多かった。眠れる大国との関係改善は今では考えられぬほど国民に歓迎され、パンダ外交も好意を持って受け入れられた。その年の12月25日、田中は小選挙区制導入を示唆。翌年国会は選挙制度改正で紛糾。空転し導入断念。地価公示価格の全国平均上昇率は前年比30・9%。5月の東京都の消費者物価上昇率は11・6%。田中内閣の支持率は72年8月に62%あったが翌年の4月には27%に急落した。秋には第4次中東戦争がはじまりトイレットペーパー買い占めなどオイルショック。田中の武勇伝は数多くあり多くのファンもいる。だが政権運営は決してうまくいかなかった。

自民党は1日、来月の参院選挙へ向けポスターを発表した。キャッチコピーは「決断と実行。暮らしを守る」。党広報本部長・河野太郎は「確かな決断と揺るぎない実行が求められている」と胸を張ったが、72年の田中が指揮した衆院選自民党のコピーも「決断と実行」だった。「検討する」を連発し、決断力に欠けると野党から言われる首相・岸田文雄にはいささか荷が重いコピーではないか。(K)※敬称略