(余録)「君が生まれた/街の通りは/見る影もない… - 毎日新聞(2022年5月3日)

https://mainichi.jp/articles/20220503/ddm/001/070/089000c

「君が生まれた/街の通りは/見る影もない/今日もまた/銃声が聞こえる」。シンガー・ソングライター山下達郎さんの新曲「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」の一節である。アフガニスタンミャンマー、香港などの情勢に触発された作品という。
カタカナ表記ならオプレッション・ブルース。ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本語のほかに英語やフランス語などの字幕をつけたビデオが動画投稿サイトで公開されている。
専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」。日本の決意を示す憲法前文では元になったGHQ草案のオプレッションを圧迫と訳している。
憲法施行からきょうで75年。成立経過から押しつけ憲法論が語られる。だが、平和主義や人権、民主など戦後秩序の核となる価値観が反映され、国民の多くは自然に受け入れてきた。
前文は「平和を愛する諸国民の公正と信義」への信頼をうたう。国連憲章とつながる理念である。核大国の暴挙や国連の機能不全でその信頼が揺らぐが、圧倒的多数の国はロシア非難決議に賛成している。
国際正義の理想を捨てては弱肉強食に陥る。いくら軍事力を強化しても安全を保てない世界である。防衛力論議は結構だが、憲法が第二次大戦の悲惨な体験の上に誕生したことを忘れてはなるまい。内向きの議論を脱して日本の理念を海外に発信し、共感する仲間を増やすことが必要な時代ではないか。