(筆洗) 古典落語の「宿屋の富」にはお金がないのに宿屋に泊まるため、… - 東京新聞(2022年4月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/174130

古典落語の「宿屋の富」にはお金がないのに宿屋に泊まるため、お大尽のふりをする男が出てくる。宿屋の亭主を相手に語るホラがおもしろい。
あっちの大名、こっちの商人に何万両と貸しているが、利息を持ってくるので邪魔で困る。家にある金の勘定を三百人がかりで始めたが、一年たっても、まだ終わらない。漬物の石は千両箱…。
男が必死に思いついたホラでも、この人の財力には勝てまい。総資産二十七兆円と伝わる世界トップクラスの富豪で、米電気自動車大手テスラの最高経営責任者イーロン・マスクさん。今度は短文投稿サイトを運営する米ツイッターの買収に成功したそうだ。
当初は買収に抵抗していたツイッター側も約五兆六千億円という買収額を提示されて心が動いたか。一転、合意に踏み切った。
問題はツイッターの今後だろう。マスクさんの掲げる「絶対的な言論の自由」というのも気になるところで、扇動的なメッセージを投稿し、ツイッターから締め出されたトランプ前米大統領のアカウント復活も主張していると聞く。
言論の自由が民主主義の根幹であることは当然だが、自由だからとフェイクや無責任な投稿が大手を振るようになれば、考えものだろう。マスクさん自身、不適切投稿が問題となった過去もある。富豪が手に入れたツイッターの青い鳥。変わらず人のためにさえずり続けられるか。