(筆洗) まど・みちおさんに「おかあさん」という詩がある - 東京新聞(2022年1月6日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/152597

まど・みちおさんに「おかあさん」という詩がある    。


おかあさんは
ぼくを 一ばん すき!
ぼくは/おかあさんを 一ばん すき!
かぜ ふけ びょうびょう
あめ ふれ じゃんじゃか


風雨にも揺るがぬ母と子の情が伝わる。
かの母親はどんな思いだったのだろう。熊本の病院で、十代女性が病院の相談室長以外に身元を明かさずに出産した。ドイツの制度を参考にした「内密出産」。今後、母親が翻意して身元を明かす可能性もあるが、国内初事例らしい。
母親は赤ちゃんに強い愛情を示しているが、自身では育てられず、特別養子縁組に託すことを望む。内密出産の選択は家族との関係が壊れるのを恐れて。自身の健康保険証や高校時代の学生証のコピー、子どもへの手紙を病院に預け、将来、子が望んだら、見られるようにした。
誰にも相談できない妊婦が産み捨てることを防ぎ、子どもが自らの出自を知る権利も守ろうと病院は従来、内密出産受け入れを表明していたが、法は未整備。病院が母親の身元を知りつつ、それを伏せて出生届を出すと罪に問われかねないと、行政は病院に自重を求めていた。制度の議論が必要だろう。
母親は子への手紙に何と書いたのだろう。退院前、赤ちゃんを抱いて涙を流したという。<一ばんすき>なはずの小さな命のぬくもりにおえつしたのか。いつか思いが伝わるといい。