【政界地獄耳】「民主主義の危機」起こしたのは誰だ - 日刊スポーツ(2021年12月14日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202112140000098.html

★首相・岸田文雄は総裁選挙の最中から「民主主義の危機」を連発。新総裁会見で「国民の声が政治に届かない、政治の説明が国民の心に響かない、こうした厳しい、切実な声があふれていた。今まさにわが国の民主主義そのものが危機にある」。11月10日の第2次内閣発足会見でも「私は引き続き民主主義の危機の中にあると思っている。コロナ禍の中で国民の心と政治の思いがどうも乖離(かいり)してしまっているのではないか、こういった声を多く聞いたことで民主主義の危機と申し上げた」とした。

★前段の「危機」は安倍・菅政治が民主主義をないがしろにしてきたのではないかという思いからと読めなくもない。後段の「危機」はもう何を言っているのかわからない。ともかく民主主義の危機をあおるのが好きなようだ。しかし本当の「危機」はノーベル平和賞受賞者たちが教えてくれている。10日、ノルウェーオスロ市庁舎で行われた平和賞の授賞式にはフィリピンのネットメディア「ラップラー」代表、マリア・レッサと、ロシアの独立系リベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長ドミトリー・ムラトフが姿を見せたが、2人の受賞理由はいずれも「表現の自由を守るために努力してきた」だ。

★レッサは16年のドゥテルテ大統領の就任以来、容疑者の殺害を容認する非民主的な麻薬犯罪捜査などを報道してきた。授賞式では「互いに対立させ、恐怖や憎しみを引き出し、世界中で権威主義者や独裁者が台頭する舞台を用意している。民主主義の存亡がかかった時を迎えている」と指摘した。プーチン政権で既に6人の記者が死亡しているがムラトフも「世界が民主主義よりも独裁体制に傾き始めている」と指摘した。岸田は「危機」というが、それは権力側が民主主義を逸脱した時に起こる。日本の場合、それは自民党の前任者たちの仕業ではないのか。(K)※敬称略