(筆洗) 芝居の目的とは何か。シェークスピアがハムレットに語らせた言… - 東京新聞(2021年12月11日)

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芝居の目的とは何か。シェークスピアハムレットに語らせた言葉は知られている。<自然に向かって鏡を掲げること>であるという。美徳、不徳をありのまま表し、世の中をくっきり映しだすことだと。
批評が込められた拍手も含め、なるほど舞台は社会の鏡なのかもしれない。フランス発のニュースを読みながら、かの国の大統領選もまた鏡に似たところがあると感じる。移民問題をめぐって、さまざまな人物が舞台で主張し、飛び交う拍手と非難が人々の本音と国の実情や問題を表してきた。鏡がまた国の姿を映し始めたようだ。
脚光を浴びている新しい役者が強烈だ。評論家のゼムール氏である。来春の大統領選へ出馬を表明した。黒人やイスラム系の人に対し差別的発言をしたことで知られる人だ。反発する勢力との間で暴力沙汰も起きている。
反移民では女性政治家ルペン氏が知られるが、さらに強硬な立場を取り、あなどれない支持を集めている。
ゼムール氏出馬表明と同じ日、一九七五年に死去した移民の歌手ジョセフィン・ベーカーさんが国の偉人の殿堂に黒人女性として初めて祭られた。差別と戦った人だ。選挙に向けたマクロン大統領の思惑もにじむ顕彰らしいが、人々は喝采したようだ。
同じ舞台で演じられた対照的な劇。時に大きく分かれる国民の本音も映し出していよう。終幕にどんな拍手が起きるか。