(筆洗) 米国のソウル歌手サム・クックのヒット曲「ア・チェンジ・イズ… - 東京新聞(2021年11月24日)

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米国のソウル歌手サム・クックのヒット曲「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」を思い出している。一九六四年、黒人差別の撤廃を求める公民権運動の中で発表された曲である。
<長い長い時間がかかっているが、変化がやってくると知っている>。黒人への差別がなくなる日は必ずやってくる。そういう希望が込められた歌である。
サム・クックと深い親交があった公民権運動の指導者マルコムXの暗殺事件の新たな展開に驚く。ニューヨークの裁判所は六五年のマルコム殺害にかかわったとして、殺人罪で有罪となった二人の黒人男性の判決を今になって、取り消した。
二人とも服役し、うち一人はすでに亡くなっている。事件から半世紀余り。<長い長い時間が>の歌詞が浮かぶ。時間がかかったが、確かに有罪判決が取り消された。けれども、過ぎ去った二人の時間は戻らない。
二人は一貫して無罪を主張し、以前から二人は無関係との証言があったにもかかわらず、無視され続けた。事件に関するドキュメンタリー番組が契機となって検察当局が再捜査に乗りだし、二人は無罪と判断した。
当時の捜査当局が証拠の一部を隠蔽(いんぺい)したことも判明した。二人の人生が台なしにされた。なぜ、えん罪が起きたか、そして、歴史的事件の真相は。今度はこれを追い掛ける必要がある。どんなに<長い長い時間>がかかってもである。