(余録) 米国で「陰謀論」… - 毎日新聞(2021年11月24日)

https://mainichi.jp/articles/20211124/ddm/001/070/080000c

米国で「陰謀論」(コンスピラシーセオリー)という言葉が広がったのは1964年だった。前年のケネディ大統領暗殺を受けた調査委員会が政府機関の関与を否定し、単独犯行を認定したことに国民が疑念の目を向けたのが発端という(ランス・デヘイブンスミス著「コンスピラシーセオリー・イン・アメリカ」)
理想主義を掲げた若き大統領が一瞬にして葬られ、行き場のない怒りにかられた国民が、あまりの重大さに「闇の権力」が命を奪ったに違いないと信じようとした。当時の識者らの分析だ。
11月22日で事件から58年が過ぎた。事件資料の9割以上が公開されたにもかかわらず陰謀論がくすぶり続けるのは、国民を欺く壮大なウソを権力が繰り返しついてきたことへの疑念があるからだろう。
大統領が違法行為に加担したウォーターゲート事件、国家間の裏取引を進めたイラン・コントラ事件、大量破壊兵器情報を操作して開戦したイラク戦争……。陰謀論が後に事実と判明した例はいくつもある。
ケネディ暗殺の残る資料は先月公開されるはずだったが、バイデン大統領が来年12月に先延ばしした。再延期も示唆する。多くが中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)作成の資料という。
調査委員会の結論を覆す資料はこれまで見つかっておらず、未公開資料に隠れた真相が埋まっているとも考えにくい。問題は、半世紀を経てなお公開できない資料が存在する理由だ。それを説明しない限り、陰謀論が消えることもない。