<金口木舌>駅から見える共生社会の風景 - 琉球新報(2021年11月12日)

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通勤でいつも利用するモノレールの駅で胸が痛くなる光景を見た。エスカレーターのステップに立つお年寄りの背後にいた利用者が「早く歩いて」と言わんばかりに急かすのである。お年寄りが気の毒だった

▼ホテルやスーパーでも同じような場面に遭遇した。当方も時々、立ち止まっている利用者の横をすり抜けて上り下りする。そんなに急ぐ必要はないのだが
▼首都圏では急いでいる人が歩けるようエスカレーターの片側を空ける習慣が根付く。最近、県内でも見られる習慣はメーカーにとって悩みの種。歩いて利用すると転倒する恐れがあるのだ
▼埼玉県が先月、立ち止まった状態でエスカレーターを利用するよう求める条例を施行したのも、安全性を考慮してのこと。業界団体の調査によると、ステップを歩くなど「乗り方不良」による事故は2年で800件ほど起きている
▼一説によるとこの習慣は1960年代末、関西で始まった。高度成長期の猛烈社員がエスカレーターを駆け抜ける姿を想像する。何を急いでいたのだろう。ステップに置き去りにしたのは安全だけではなかったような気がする
エスカレーターの速度は分速30メートル程度。ステップに立って使うことで見えてくるものがある。それは、若者やお年寄り、体の不自由な人が同じ速度で安全に移動できることを約束する共生社会の風景であろう。