<南風>「さとうきび畑」の歌 - 琉球新報(2021年9月18日)

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「今年6月に私たちの合唱団の定期演奏会があります。聴きに来てください」
韓国・済州島の友人金さんからそんなメールが届いたのは、2017年の春先だった。例年だと私は「済州4・3慰霊祭」への参加を第一に考えるが、その年は金さんの誘いに乗った。
金さんは「カリシス・クワイア」という名の女声コーラスに所属している。市民サークルの一つである。団員は済州大学のクラシック音楽愛好会OBで、元々混声4部合唱だったが、仕事の多忙を理由に男性陣の参加が減った。そこで女性だけで再スタートすることになったという。
私は金さんに、沖縄の歌手をゲスト出演させてもらえないかと相談した。かなうなら、歌は「さとうきび畑」である。1948年4月3日に始まった、済州島の良民虐殺事件。数万人の命が奪われた島の人たちの消えない悲しみは、沖縄県民の体験と重なる。
沖縄戦研究者のご夫君とともに、金さんは何度も来沖しているし、「さとうきびの歌」も知っている。間もなく「1曲と言わず、もう1曲」と、うれしい返事が来た。ソプラノ歌手は東京で活躍する照屋江美子氏、ピアノ伴奏はご夫君の平郁夫氏である。
6月24日、演奏会は済州大構内に建つ音楽ホールで行われた。照屋氏が登場する前にナレーションが歌につづられた沖縄戦を、静かに語る。やがて「さとうきびの歌」。しーんと聴き入る会場の皆さんに、胸が熱くなる。
プログラムが進み、最後を締めたカリシスの合唱も素晴らしかった。終演後のロビーに、「ざわわ…」のハミングが流れていた。
翌年の4月、沖縄県済州会の「学びの旅」があり、私も同行した。慰霊祭参加のほか、盛りだくさんの日程。女教師の会との交流会で、済州会の皆さんは「てぃんさぐの花」を歌った。

(新垣安子、音楽鑑賞団体カノン友の会主宰)