【政界地獄耳】党人事だけでは済まぬ菅の大誤算 - 日刊スポーツ(2021年9月2日

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202109020000100.html

毎日新聞の8月31日「首相、9月中旬解散意向 党役員人事・内閣改造後 総裁選先送り」という記事は政界に衝撃を与えた。ことに総裁選挙の先送りは書きぶりから菅の独裁的色彩が強くうかがわれ党内の反発を受けた。結局1日に「最優先は新型コロナウイルス対策だと申し上げてきた。今のような厳しい状況では衆院解散できる状況ではない」と否定せざるを得ず、総裁選の先送りも否定した。首相・菅義偉の普段の考えをまとめれば記事のような話になるが、記事1本で政局の局面が変わった。

★なぜこんなことになったのか。首相は無派閥の首相だ。これが派閥を抱えていたならば、党内情勢を派閥の複数の議員に問うこともできるし、官邸の側近以外の情報ツールを持つこともできる。たいしてあてにできない首相補佐官や内閣参与たちではない声を知ることができる。また党内が記事に動揺すれば、派閥の幹部に背景説明をして党内を歩かせ、事情を承知してもらう手段もある。首相はその手合いを持ち合わせていない。すると情報が独り歩きをし始め、発言していない記事を否定するコメントを出さざるを得なくなる。危機管理と情報戦のプロを自任する首相の弱点が露呈したといえる。

★ただ、党人事刷新は内閣改造に広がる可能性がある。もう1度原点を見直してほしい。この内閣は前首相・安倍晋三が途中で辞任した後を担う暫定内閣。今も半分は安倍内閣なのだ。閣僚人事も居抜きの部分も多い。本来ならば自前の組閣を総裁選に勝利した後に断行したいはずだが、その順番がおかしくなった。1年前から首相がしたためていた組閣名簿をこのタイミングで披露しなくてはならないのは首相にとっては大きな誤算だったろう。それが党人事だけでは済まなくなった理由だ。議員感情を読み切れず、党内に疑心暗鬼をもたらしての政局運営は首相にとっては自らの著書ではないが「政治家の覚悟」が問われる事態だ。(K)※敬称略