(筆洗) 魔法の国に行ったドロシーは自分の家に帰りたくなる。よい魔女… - 東京新聞(2021年8月29日)

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魔法の国に行ったドロシーは自分の家に帰りたくなる。よい魔女が帰り方を教えてくれる。米映画「オズの魔法使(まほうつかい)」(一九三九年)である。
靴のかかとを三回ならし、こう唱える。「おウチほど良い場所はない、おウチほど良い場所…」。「虹の彼方(かなた)に」あるという悩みも心配もない場所へ行きたがったドロシーだが、自分の家こそがその場所であった。
ドロシーの唱えた呪文は英語では「THERE IS NO PLACE LIKE HOME」。旅行から帰ったときに日本人もほっとしてよく使う、あの言葉と雰囲気は同じだろう。「やっぱり、家が一番」
そう言えるのはやはり幸せなことだ。気の重くなる話である。全国の児童相談所が昨年度に対応した児童虐待の件数は二十万五千二十九件。二十万件を超えるのは一九九〇年度の統計開始以来初めてという。
二十万件の子どもの泣き声。身体的虐待や子どもの前で親が家族に暴力をふるう面前DV(ドメスティックバイオレンス)などの犠牲になっている子どもにとっておウチは良い場所でも一番でもなく、危険で恐ろしい場所になっている。安全でくつろげる居場所がない。小さな胸にある苦しみの大きさと悲しみの深さを思う。ましてや、コロナ禍のステイホームの時代である。
取り組みを急ごう。すべての子どもに「おウチほど良い場所はない」と言ってほしい。