<金口木舌>情報化時代に戦争を伝える - 琉球新報(2021年8月22日)

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大手週刊誌が電車内の中づり広告を終了すると発表した。速報性を高めるためデジタル分野を強化することや、スマートフォンの普及で車内広告の効果が薄れたことが理由という

▼ネット環境が充実した昨今、大量の情報が秒単位で発信される。古い話題はすぐに埋もれ、いつしか忘れ去られる。そんな時代だからこそ、歴史を後世に語り継ぐことの重要性は高まっている
▼日本世論調査会が実施した「平和」に関する調査では、戦争の悲惨さを伝える方法として「体験者の証言を映像や文章で残す」や「学校で教える機会を増やす」との回答が多数を占めた
那覇市対馬丸記念館は、対馬丸の撃沈を語り継ぐために紙芝居を作った。小学校教諭からも紙芝居作成の要望が多く2年かけて仕上げた。絵と読み手の言葉で悲劇を伝えれば子どもたちの心に響くはず
▼記念館には犠牲者の遺影や遺品が並ぶ。対馬丸に乗船した児童らの、当時の生活も紹介される。子どもたちの日常と命を奪い去った戦争が、いかに愚かなものか肌で感じられる。ネットの情報に触れるだけでは得られない感覚だ
対馬丸が撃沈されて、きょうで77年。長い年月が流れても遺族の悲しみは消えない対馬丸について学び、遺品などに触れて悲劇を次の世代に伝える。速さを求める時代にあって時間のかかる手法だが、大切なことだと実感した。