(余録) フランスの画家ゴーギャンが愛したタヒチ島を中心とする南太平洋の仏領ポリネシア… - 毎日新聞(2021年8月6日)

https://mainichi.jp/articles/20210806/ddm/001/070/102000c

フランスの画家ゴーギャンが愛したタヒチ島を中心とする南太平洋の仏領ポリネシア。現地語で「大いなる秘密」を意味するムルロア環礁では1966年から30年間、フランスの核実験が繰り返された。
広島、長崎への原爆投下から50年を迎えた95年には凍結していた地下核実験を再開し、内外から批判を浴びた。当時のシラク仏大統領が「なぜ被爆50年と教えてくれなかったのか」と側近を叱ったという話も伝わる。核保有国の認識はその程度だったのだろう。核実験全面禁止条約の成立を控え、中国も駆け込み的な地下核実験を強行した。
米国と中露の対立激化で軍拡競争の再燃に警戒が高まる。だが、悪いことばかりでもない。オバマ氏が米大統領として初めて広島を訪れ、核兵器禁止条約が発効した。核保有国も核廃絶の声の高まりに圧力を感じているのではないか。
東京五輪開会式に出席したマクロン仏大統領はタヒチに飛び、核実験で被ばくした島民への補償拡大を表明した。菅義偉首相が「黒い雨」訴訟で上告を断念したのも世界的な流れに沿う判断と言えなくもない。
解せないのは7月に広島を訪れた国際オリンピック委員会IOC)のバッハ会長の対応である。広島市は選手らに黙とうを求める要請文を送ったが、バッハ氏は動こうとしない。
核廃絶は人類共通の願いだ。平和の祭典を世界的な関心を高める機会にすることに問題があるとは思えない。次回パリ五輪も期間中に原爆忌を迎える。粘り強く働きかけを続けたい。