(ぎろんの森) 酒問題から見える政権の本質 - 東京新聞(2021年7月17日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/117276

耳を疑う発言でした。新型コロナウイルス感染症対策として、西村康稔経済再生担当相=写真=が、酒類提供停止に応じない飲食店に「金融機関から働き掛けを行ってもらいたい」と述べたことです。
そもそも発言に法的裏付けはありません。金融機関がそんなことをすれば、独占禁止法が定める優越的地位の乱用に抵触する恐れがあります。
感染拡大を抑えたい焦りなのでしょうが、法律に反することを政府が強制するとは言語道断。もはや善悪の判断さえつかなくなっているのか。
飲食店に我慢を強いるのなら、十分な補償をして協力してもらうのが筋です。その努力もせず、国会を開いて議論もせず、一片の通達で済まそうとするのは権力の乱用、政権の傲慢(ごうまん)さの表れです。
論説室の議論では西村氏だけでなく、政権全体の責任を追及すべし、との意見が相次ぎ、十三日と十六日の二回にわたり、問題点を指摘する社説を掲載しました。
読者から「西村氏の発言は撤回して済む問題ではない。飲食店への営業妨害だ」と厳しい意見も届いています。
この問題がさらに深刻なのは、菅義偉首相も出席する関係閣僚会議で方針が示されたものの具体的な議論はなく、異論も出なかったことです。
首相の面前では、内閣官房が決めた方針に、問題点すら指摘できない重苦しい雰囲気が漂っているのでしょうか。
麻生太郎財務相梶山弘志経済産業相が後になり「おかしいと思わなきゃ」とか「強い違和感を覚えていた」と言っても、後の祭りです。
今や、菅政権の迷走は目を覆うばかりです。緊急事態宣言を出したり引っ込めたり、ワクチン接種を加速したり減速したり、五輪競技会場の観客の有無をぎりぎりまで決断しなかったり。
来週から始まる東京五輪では、選手の奮闘に静かに声援を送りつつ、この間も政権には厳しい視線を注ぎます。
次回の「ぎろんの森」は二十六日掲載予定です。 (と)