<金口木舌>戦場の理髪師 - 琉球新報(2021年5月13日)

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先日亡くなった田中邦衛さんは北国が似合う俳優だった。北海道富良野市を舞台としたドラマ「北の国から」では主人公の黒板五郎を好演し、代表作となった。木訥(ぼくとつ)とした語り口はその素顔と重なる
▼同じ北海道でも高倉健さんらと共演した1965年の「網走番外地」では大槻という名の囚人を演じた。そんな田中さんには沖縄が舞台の出演作もある。71年の「激動の昭和史 沖縄決戦」はその一本
新藤兼人脚本、岡本喜八監督というコンビの作品で沖縄戦の史実に沿いながら脚色を加えた。田中さんの役どころは32軍司令部付の理髪師。軍と運命を共にする軍属である
▼誤った戦勝情報に歓喜する。日本軍が総攻撃すると聞けば「俺も行く」と言って手りゅう弾を探す。南部に撤退する軍司令官には「お供させてください」。摩文仁で水くみに駆け回る
▼作戦を巡る司令部内の対立を理髪師は知らない。沖縄を本土防衛の捨て石としたことも。沖縄戦時の県民もそうであった。軍首脳を主人公とした映画で理髪師は県民を象徴するもう一人の主人公と言えよう
▼76年前の5月5日、日本軍は総攻撃に失敗し戦力を喪失した。それでも戦闘を続け、県民の犠牲は増大した。コロナ禍で五輪の是非が問われる中で思う。民の命に対する無責任さで二つの時代は似ていないか。田中さん演じる理髪師を誰が笑えよう。


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