<金口木舌>ヘイトクライム - 琉球新報(2021年4月8日)

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「ヘイ、ジャップ!」。後方から言葉とともに私に目がけて小さな物体が飛んできた。1980年代末の米国中西部。高校に向かうスクールバス内での出来事である。言葉にならないほどの苦痛だった
▼自動車に電化製品、ゲーム…。日本製品が米国人の生活に浸透していた。米国の対日貿易赤字は膨らみ、日米貿易摩擦が激化していた時代である
新型コロナウイルスの感染拡大を機に米国でアジア系住民を狙ったヘイトクライム憎悪犯罪)が増えている。大学の調査ではニューヨークなど全米16都市で2019年に比べてアジア系を標的とした憎悪犯罪は2・5倍になった
世界保健機関は15年から感染病名に国名、人名、動物の名、特定の文化や業界に関する名詞を使わないことを決めた。過去の感染病名が特定の人々への差別につながってきたからだ。だが、トランプ前大統領は新型コロナウイルスを「チャイナウイルス」と繰り返し発言した
▼私に向けられた蔑称は友人の勇気ある行動でやんだ。「見て見ないふりをすることは人種差別する人たちの肩を持つことになるわ」。友人は笑顔でこう言った
▼日本にも外国人に対する差別がある。コロナ禍では「外国人お断り」と張り紙をする飲食店もあった。見て見ないふりをすることは人種差別を助長し、支持することにつながる。そのことを肝に銘じたい。