(筆洗)先週末の強い雨風にサクラの花が心配になる。月曜の早朝、近く… - 東京新聞(2021年3月23日)

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先週末の強い雨風にサクラの花が心配になる。月曜の早朝、近くの公園に確かめにいく。ソメイヨシノは風にも負けなかったようだ。
残念。こちらはずいぶんと散っている。濃いピンクの花びらが散り重なっている。少々早咲きのサクラなのでしかたがないか。満開は見逃したが、地に落ちてなお鮮やかなピンクが美しい。
品種名は「陽光」。別に「非戦のサクラ」とも呼ばれる。愛媛県東温市の元教員、高岡正明さんという方が私財をなげうち、およそ三十年かけて、生み出した新品種のサクラである。
戦争中の教員時代、教え子たちを戦地に送り出し、死なせてしまった。その後悔から、教え子を鎮魂するサクラを作りたいと考えた。映画監督、高橋玄さんの「陽光桜」(集英社ビジネス書)に詳しい。
極寒の地、炎熱の地で亡くなった教え子がいるのでどんな気候でも花を咲かせるサクラにしたい。害虫にも強くなければ。人工交配を繰り返した。濃いピンク色にこだわったのは平和のシンボルとして海外でも愛される色にしたかったからだそうだ。一九八一年に品種登録され、全国に広がった。今では身近なサクラとなった。
「この美しい桜の姿を見ているだけで、人類は争いなどする気もなくなるわい」。高岡さんはそうおっしゃっていたそうだ。花見はしにくい時節なれど「争い」を忘れさせるピンクの力を信じている。