<南風>悪夢のような政権 - 琉球新報(2021年3月16日)

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山田真貴子前内閣広報官が、首相が出演したNHK番組を巡り抗議の電話を掛けキャスターの降板問題に発展した疑惑。記憶がないという当人は辞任、このまま幕引きとなりそうだ。
放送への政治介入は、近年では2005年に朝日新聞が報じたNHK番組改変問題がはしりだろう。従軍慰安婦関連の番組に、当時の安倍晋三内閣官房副長官中川昭一衆議院議員NHK上層部に圧力を掛け、内容の一部が改変されて放送されたとの疑惑だ。
報道が出たとき、経産相だった中川氏は欧州歴訪中だった。私は会社の指示でブリュッセル支局からプラハに飛んだ。実は中川氏は2日前にパリで記者会見し疑惑を既に否定していたが、記者をプラハにまでしつこく追いかけさせるほど事は重大なのだと思った。
プラハでは新事実は得られなかったが、国会の参考人招致に場合によっては応じる考えを示したので、それをメインに記事にした。だが、中川氏は後日、歴訪先の会見で、参考人招致について「そんなことは言っていない」と否定した。私を含め記者4人の前で語ったにもかかわらずだ。
この改変問題を始め、民放も含む、一連の介入疑惑の真相はどれも闇の中。原因はメディアの対応にもある。報道への政治介入は民主主義の蹂躙(じゅうりん)との危機感を持ち、結束しなければ、いつか来た道をたどりかねない。
国境なき記者団(パリ)が発表した、20年の報道の自由度ランキングで、日本は180カ国・地域中66位だった。民主党政権下では11位まで上昇したが、第2次安倍政権になると72位まで後退した。評価方法に異論もあるが、実態は反映していると思う。民主党政権を「悪夢のような」と揶揄(やゆ)し、民主主義を軽視、疑惑にまみれた安倍政権。悪夢のような政権はどちらだったろう。
(大野圭一郎、元共同通信社那覇支局長)