(筆洗) 中世の欧州でペストがはやると、ユダヤ人が毒をまいたせいだと… - 東京新聞(2021年3月12日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/91024

中世の欧州でペストがはやると、ユダヤ人が毒をまいたせいだという流言が広がり、各地で迫害が起きている。幕末の日本でもコレラが流行した際、似た理屈で「異国人」が迫害の対象になったという。
<疫病がひとを襲うとき、いつも憎悪というもひとつの疫病が流行し…不幸に不幸をかさねる歴史を性懲りもなく繰り返すのである>。歴史学者立川昭二さんは、三十年以上前の著書『病(やま)いと人間の文化史』で歴史をひもときながら書いている。「憎悪の心理感染」への警鐘である。
憎悪の心理感染を思わせる不気味なニュースが、コロナ禍の米国から報じられている。アジア系住民に対し、人種的な憎しみを背景にしたとみられる暴力が、西海岸の都市などで昨年から増えたという。
最近もタイ系の男性が路上で襲われ死亡するなど、事件が相次いだ。ロサンゼルスのリトルトーキョーの寺院が、破壊にあったと報じられた。日系人も無縁ではない。
トランプ前大統領が「中国ウイルス」「中国感染症」などと繰り返した影響を多くのメディアが指摘している。コロナに関し、中国の責任を問う人は多いが、大統領の発言である。憎んでもいいのだと解釈する人間が増えてしまったおそれがありそうだ。
トランプ氏が権力の座を去っても衰えていないようで不気味だ。憎悪の心理感染への特効薬もワクチンも見つかっていない。