(私説・論説室から)「うれしい」を集める - 東京新聞(2021年3月1日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/88763

労働や雇用分野を取材していると「働く」意味とは何か、としばしば考え込む。
そう思っていた時、地元の公立小学校から新聞記者という職業について六年生たちに話してほしいとの依頼をいただいた。
キャリア教育の授業で建築士や薬剤師、保育士、ファイナンシャルプランナーなど地域の人たちが自分の仕事について語った。
授業で最初に「なぜ人は働くと思う?」と問うと「生活のため」と返ってくる。もちろんそうだが、そこである体験を話した。
この欄で昨年十一月「マスクを外して秋を吸う」と題するコラムを書いた。長引くコロナ禍にマスクを外して散歩したらとても気持ちがよかった。苦境下でもささいな楽しみを見つけたいと気持ちを吐露した。
しばらくして読者から丁寧なはがきをいただいた。「心が晴れた気がいたしました」と感想が書かれていた。別の読者からのマスクを外した呼吸を毎朝実践し「一日のスタートを切っています」との投稿も紙面に載った。
ここまで話し子どもたちに「手紙をもらった筆者はどう感じたと思う?」と聞くと「読者に気持ちが通じたことがうれしかった」との声が上がった。その通りだ。
仕事を通して誰かが喜んでくれる。それはとても愛(いと)おしい。どの仕事も同じだろう。働くとは「うれしい」を集める営みだ。少しはそれが伝わったら、うれしい。 (鈴木 穣)