(余録) 大正・昭和の法学者、末弘厳太郎が戦前… - 毎日新聞(2021年2月26日)

https://mainichi.jp/articles/20210226/ddm/001/070/075000c

大正・昭和の法学者、末弘厳太郎(すえひろ・いずたろう)が戦前、役人になる若者への三つのアドバイスを記した「役人学三則」である。「およそ役人たらんとする者は平素より縄張り根性の涵養(かんよう)に努むることを要す」はその第3条だ。
こう記せば、役人への皮肉だと分かっていただけよう。第1条は万事広く浅く理解するよう努め、個別・特殊の事柄に興味を集中してはならない。第2条は法規をたてにとって形式的理屈をいう技術を習得せねばならないというのだ。
「イベントやプロジェクトに誘われたら絶対に断らない。飲み会も断らない」とは、現代の若者への辣腕(らつわん)女性官僚のアドバイスである。当人は「飲み会も絶対に断らない女」とのことで、こちらは皮肉や風刺で言っているわけではない。
総務省勤務時に菅義偉(すが・よしひで)首相の長男の勤める放送事業会社から1回7万円の接待を受けていた山田真貴子(やまだ・まきこ)内閣広報官である。給与の一部を自主返納し、国会で陳謝するはめとなり、先年動画で語った飲み会発言まで注目されてしまった。
菅首相が強い影響力をもつ総務省で栄達し、内閣広報官に抜てきされたという山田氏だ。チャンスに挑戦し、人脈を広げよと若者に呼びかけた先の発言だが、今思えばつかんだ人脈やコネにひそむ落とし穴も警告しておくべきだった。
7万円接待発覚にも首相は広報官を続投させるというが、さて国民は納得するのか。「政権首脳とのコネを最優先し、その意をそんたくすべし。ただしその危険も忘るべからず」。令和役人学の第1条だ。