<金口木舌>沖縄戦後史の闇 - 琉球新報(2021年2月25日)

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本島北部に残る私宅監置跡で追体験したことがある。コンクリートの小屋には小さい窓があるだけで昼間でも暗い。数分の滞在だったが、絶望を感じるのに十分だった。この小屋には精神障がいとみられる男性が十数年閉じ込められていた
▼かつて政府の許可を得れば、合法的に私宅監置ができた。本土では1950年に廃止されたが、米統治下の沖縄では72年の日本復帰まで容認された
▼私宅監置を題材にした映画「夜明け前のうた」の試写会に足を運んだ。映画では60年代に沖縄を訪れた精神科医が撮った当事者たちの写真が出てくる
▼薄暗い部屋に裸体で横たわる男性、格子から顔をのぞかせる老人など当時の劣悪な環境が分かる。写真の男性の鋭い眼光は私たちに厳しく問い掛けているように見える。「なぜ、私を社会から消そうとするのか」と
▼監督の原義和さんは「隔離された人たちは尊厳を深く傷つけられたが、公的な検証は行われていない」と語る。県内の関係者は私宅監置跡保存や当事者たちの尊厳回復を求め動く
▼約100年前、精神障がい者の処遇改善を訴えた呉秀三氏は「我が国の精神病者はこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」との言葉を残した。精神障がい者を取り巻く環境は変わったのだろうか。過去と向き合い、いまを考える契機としたい。