(筆洗) ジャック・ニコルソンさん演じる私立探偵のもとに、謎の女性か… - 東京新聞(2021年2月20日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/87117

ジャック・ニコルソンさん演じる私立探偵のもとに、謎の女性から電話がかかる。先日もテレビで放送していたが、ハードボイルド調の傑作映画「チャイナタウン」のちょっと印象に残る場面だ。
女性は警戒しながら「今おひとり?」。電話の周囲には複数の人間がいたのだが、探偵は言う。「誰だってひとりさ」。人はみな孤独であると言って、会話をつないだ。ぎりぎりかもしれないが、うそはついていない。職業上の倫理からか。うそをつかないことを自らに課した人の言葉のかっこよさである。
こちらはどうもかっこ悪い。配慮してきたのは、倫理規程より権力だったのではないか。放送事業会社に勤める菅首相の長男らによる接待の問題である。放送業界に関する話題が出たかどうかについて、「記憶にない」と言っていた総務省の局長が、音声データが公開されると答弁を一転させ、「発言があったのだろうと受け止めている」
事実上の更迭となった。「記憶にない」は、意図的なうそではないかもしれないが、そんな昔の話でもない。虚偽答弁と言われても仕方がないだろう。
本当に行政には影響はないのか。首相への忖度(そんたく)でなかったかも疑われよう。虚偽の答弁といい、前政権からの体質は一掃されたようには思えない。
自らに何を課すか、一人になって考え直した方がいい人が政権にはいるのではないだろうか。