(筆洗) ナイジェリアの強い日差しの中を十五歳の少女が三歳の妹を背負… - 東京新聞(2021年2月7日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/84507

ナイジェリアの強い日差しの中を十五歳の少女が三歳の妹を背負いながら歩き続けている。焼けるような暑さ。おなかも減っている。それでも歩く。
背中の妹はマラリアに感染していた。母は病気で伏せっている。父親は戦争に行ったまま帰らない。自分が医者のところへ連れていかなければ、妹は助からない。長い距離を歩き続け、やっとたどり着いた教会の入り口には人があふれている。少女は妹を背負ったまま、人の足の間をはって進んでいった。ようやく見つけた窓から入り、なんとか医者をつかまえた。妹はぎりぎりのところで助かった。
世界貿易機関WTO)の新たな事務局長に選ばれる見通しとなったナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相の少女時代の話だそうだ。女性初の事務局長。そして現実の貧困を肌で知る人物がWTOのトップとなることに期待する。
世界銀行での長い経験と財務相としての実績に加え、意志の強い人と聞く。財務相時代、何者かが母親を誘拐した。身代金と財務相辞任を要求してきた。どちらも拒否したと伝わる。
貧困に手を差し伸べるのは人道的であり同時に経済的なのだと語っていた。助けられた人はやがて働けるようになる。事実、あの妹は医師となった。
貿易の保護主義に対し、WTOの無力さが指摘され、久しい。苦しむWTOを負い、厳しい道をあの少女が歩きだす。