(余録) 東京・根津神社に近い不忍通りの歩道周辺で… - 毎日新聞(2021年2月7日)

https://mainichi.jp/articles/20210207/ddm/001/070/066000c

東京・根津神社に近い不忍(しのばず)通りの歩道周辺で平日朝、ゴミを拾うスーツ姿の人たちがいる。朝日信用金庫根津支店(文京区)の職員である。
始めたのは2017年に支店長となった田代尚隆(たしろ・なおたか)さん(47)だ。埼玉県から通う彼は朝のラッシュを避けようと早めに出勤する。支店を解錠するまでの約10分間、店の周りで掃除を始めると、それを知った若手職員数人が、いつしか倣うようになった。
田代さんは若いころから、配属された都内各支店で、朝のゴミ拾いをしてきた。「近所の人たちとあいさつを交わすことで、街を知るきっかけにもなります」
ほうきとちりとりでたばこの吸い殻や枯れ葉を拾っていると、道行く人から「ご苦労様です」と声を掛けられる。「どこから聞こえるのかと思ったら、2階の窓からわざわざ、あいさつしてもらったこともあります」。ゴミ拾いで生まれる笑顔のやり取りである。
世界には清掃を社会階層の低い者の仕事と考え、自分で掃除するのを嫌う人も少なくない。以前、国際スポーツ大会で日本人が客席のゴミを集めて話題となった。エジプトの公立学校では最近、みんなで掃除をする日本方式が広がっている。
確かに掃除を通し、連帯感を養うことができる。季節の移ろいに気付き、自らの精神を落ち着かせる効果もあるだろう。田代さんは週明けから江戸川区の葛西支店に赴任する。しばらくはマスクを通してになるが、葛西の朝に少しだけ、「ありがとう」「ご苦労様」の声が増えるはずだ。