(政界地獄耳) 森問題の教訓を生かす道 - 日刊スポーツ(2021年2月6日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202102060000092.html

★元首相・森喜朗五輪組織委員会会長に君臨していることも含め、過去の暴言や失言にさかのぼりメディアもネットも大騒ぎだが、森が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「わきまえる女」などの発言を謝罪し、撤回したことについてIOC(国際五輪委員会)は「その部分については理解した。政府としては引き続き、東京大会に向けて努力してほしい」と不問に付すとした。

★だがJOC日本オリンピック委員会)やJSPO(日本スポーツ協会)、スポーツ庁などの団体首脳から森に対して批判は出ない。批判しているのはスポーツ団体以外の普通の感覚を持った人たちだ。横で森の発言を聞いていた人たちも森をとがめたわけではない。あえて言えば我が国には森の考えや価値観を苦々しく思っている人たちが圧倒的に増えたものの、年配の権力層になるほど、それを正すどころか賛同者が増えるという旧体質がはびこる。つまり昭和から続く保守政治の源泉の思想とスポーツ界が結びついていることに帰結する。

★18年ごろ、五輪招致が決まった後、さまざまなスポーツ競技団体でセクハラやパワハラ、暴力がはびこっていることが露呈した。大相撲の大麻所持、親方らによる暴行死事件、力士らの野球賭博。女子柔道の暴力事件、高校の部活での指導者の体罰による生徒の自殺。大学アメフト、レスリングのパワハラ、ボクシング連盟の助成金不正流用、居合道称号認定の金銭授受、バスケットボール選手の買春、体操選手のコーチ暴力と体操協会のパワハラ疑惑などが噴出した。

★アスリートたちは五輪招致が体質改善のきっかけになると考えたはずだ。各団体は倫理を高めようとスポーツインティグリティ(高潔性・品位)確立へ組織改革に着手した。ところが大幹部の体質改善ができていなかった。「コロナに打ち勝つ五輪」や「震災復興五輪」も結構だが、森の退場は決着にならない。東京五輪実現は難しいかも知れないが、差別を排除し品位を持つスポーツ社会を日本に植え付ける五輪として古い差別的体質の一掃を現役選手から団体幹部まで巻き込んで実現することが森問題の教訓を生かす道だ。(K)※敬称略